無理ゲー地方創生

東京一極集中の果てに地方ではどんな未来が待ち受けているのか

空き家率全国1位の山梨県に見る「地方創生の壁」と可能性

~高齢化・交通不便・都市近郊の矛盾する現実~

はじめに:なぜ山梨県なのか?

日本全国で増加する空き家問題の中で、**山梨県の空き家率は2023年時点で全国1位(21.6%)**に達した。人口減少・高齢化が加速度的に進行する中、同県では「空き家=地域課題」の象徴ともいえる状況に直面している。

本稿では、山梨県における空き家問題の構造を、「地域特性」「高齢化」「政策」「活用事例」「交通インフラ」「地方創生の限界と可能性」という切り口から検証し、他地域にも通ずる教訓を提示する。


1. 地理的条件と空き家率の逆説

山梨県は東京から特急で90分前後という首都圏近郊のアクセスの良さを持つ一方、山間部に囲まれた内陸県という地理的ハンデも抱える。甲府盆地を中心に人口が集中しており、それ以外の中山間地域では急速な過疎化が進んでいる。

こうした地理的偏在性が、空き家率を押し上げる大きな要因となっている。特に農村部では相続放棄された住宅や、帰省者が不在のまま放置された空き家が目立つ。

参考:総務省「住宅・土地統計調査」(PDF)


2. 高齢者単身世帯の増加と空き家化の連鎖

山梨県では、高齢者単身世帯の増加が著しい。2023年時点で65歳以上の高齢化率は30%を超えており、郡部では40%近い市町村もある。空き家の多くは高齢者の住まいであり、以下のような連鎖が起きている:

  • 高齢者が介護施設に入所

  • 空き家となるが、子世代は首都圏在住

  • 相続・維持が困難で放置される

  • 老朽化が進み、利活用困難な“特定空き家”化

特に甲府市の調査によると、「空き家所有者の6割以上が高齢者」とされており、地方創生の対象となる若年層とは完全に逆の層が空き家問題の主体となっている。

参考:甲府市 空家等対策計画(PDF)


3. 移住・定住支援策の限界

山梨県では他県と同様に、移住・定住促進を目的とした支援策を展開している。空き家バンクの整備、リノベーション補助金、改修費助成などが代表的だ。

しかし以下のような課題がある:

  • 登録物件が「不便な立地」や「劣化が進んだ住宅」に集中

  • 利用希望者とのマッチング率が低い

  • 地元住民の“閉鎖的意識”による参入障壁

また、地方創生における「空き家活用」を進めるうえで最大の問題は、使いたい人(都市部の若者など)と、使える家(農村部の老朽住宅)のミスマッチに尽きる。


4. 空き家の利活用:地域おこし協力隊の挑戦

そんな中、注目されるのが地域おこし協力隊による空き家再生の事例である。以下のような試みが進んでいる:

  • 富士吉田市「SARUYA」:築50年以上の空き家をゲストハウス+地域交流スペースに

  • 甲州市「大黒屋サンガム」:古民家カフェ兼ゲストハウスをオープン

  • 中央市「ゲストハウス紡 tsumugu」:築200年の古民家をリノベーションし、移住者が定住

これらに共通するのは、「自らが使いたい家を自分で改修し、仕事に転化する」という住まいと生業を一体化したモデルだ。


5. 交通インフラの貧弱さが再生を阻む

一方で、地方創生において見過ごされがちな要素が交通インフラである。

例:上野原市などでは、最寄りバス停まで2km以上、バス本数も1日3本程度
→ 空き家を活用しても来訪者が来ず、移住者も定住できない

交通不便地域では「空き家を直しても人が来ない」ため、空き家活用は都市部からアクセス可能な一部エリアに限定されるのが実情だ。


6. 地方創生と空き家再生のジレンマ

山梨県の空き家政策は「活用前提」で成り立っているが、現実には以下のジレンマに陥っている:

  • 活用可能な空き家:交通利便性があり改修しやすい(数が少ない)

  • 活用困難な空き家:山間部・老朽化・権利関係が複雑(数が多い)

つまり、「再生できる空き家」はすでに活用済みであり、「残った空き家」は再生コストがかかるうえに需要がない。この現実は、山梨県に限らず多くの地方で共通する。


7. 本質的な対策とは何か?

インフラを含めた面的支援

単なる住宅支援だけでなく、「交通」「通信」「医療」などの生活インフラをセットで整備しなければ、空き家の“定住”転用は成功しない。

「空き家+しごと」の一体化支援

空き家を活用する人材に対して、「働く場所の提供」や「起業支援」が不可欠である。山梨県ではクラフト・宿泊・観光などで実例が生まれているが、補助制度との連携が必要。

若者へのアクセス強化

山梨県がターゲットとすべきは、都市部で地方移住に関心がある30代以下の層。SNS活用やオンライン移住フェアなどで「知ってもらう」ことから始めなければならない。


おわりに:空き家率21.6%の裏にある「縮退社会」の現実

山梨県の空き家問題は、単なる住宅の老朽化や相続放棄にとどまらない。そこには、人が減る・年を取る・つながりが切れるという縮退社会の深刻な構造がある。

そして、地方創生はこの構造に立ち向かうための挑戦である。

山梨県の空き家率全国1位という事実を、失敗と捉えるのではなく、**「課題が先鋭化しているからこそ、解決モデルを生み出せる場」**ととらえ直す必要があるのではないか。


出典・参考URLまとめ