結局、稼げる仕事がある場所に人は集まる
近年、政府が推進してきた「地方創生」政策は、人口減少・少子高齢化に直面する地方の再生を目的として、さまざまな補助金や交付金、構想が展開されてきた。ICTやDXの導入、移住促進、地域資源を活用した観光振興など多岐にわたる施策が進められているが、いまだに多くの地域で人は戻らず、若者の流出も止まっていない。
なぜ地方創生はうまくいかないのか。その根本には、「稼げる仕事がある場所に人は集まる」という単純で本質的な事実を無視して、制度や仕組みを上から与えることばかりに注力しているという構造的な誤りがあるのではないか。本稿ではこの問題意識を起点に、地方創生構想の限界を明らかにし、真に機能する地域再生の方向性を考える。
1. 結局は"経済原則"に従う人の動き
人口は"職"と連動して動く。それは歴史を見ても明白だ。明治以降の工業化に伴う都市集中、戦後の高度経済成長期における三大都市圏への人口流入、そして現代における東京一極集中——いずれも仕事と賃金の集積が人の流れを生んだ。
地方創生の施策の多くは、制度の整備や環境の改善には力を注いでいるが、肝心の「地元で稼げる仕事」を創出できていない。農業体験や地域おこし協力隊、移住定住の促進施策などは、長期的な雇用や所得の安定を伴わなければ定着にはつながらない。つまり、人の動きは美辞麗句では動かず、「生活が成り立つかどうか」が唯一にして最大の判断基準なのは明白です。
2. 地方における産業空洞化と“経済的魅力”の欠如
地方では、かつて地域を支えていた基幹産業(製造業、農林水産業)が急速に縮小している。グローバル化と人口減少が進む中、地方の中小企業は競争力を失い、後継者不足や採算性の悪化によって事業継続が困難になっている。
新しい産業を興す取り組みも各地で見られるが、都市圏のベンチャー投資や人材流動性の高さに比べて、地方は圧倒的に不利な立場にある。テレワークの可能性が注目された時期もあったが、それだけで経済圏が形成されるわけではない。結局のところ、都市部に比べて「年収」「キャリア形成」「職種の多様性」が乏しいため、若者にとって地方は選択肢に入りづらい場所のままである。
3. 「制度」中心のアプローチがもたらす弊害
現在の地方創生は、制度や予算ありきで物事を進める傾向が強い。補助金が出るから移住促進をやる、交付金を受け取るためにイベントを企画する、といった「施策のための施策」が散見される。
しかし、制度はあくまで支援の手段であり、目的ではない。稼げる仕事がない場所に移住しても、生活は続かない。外部コンサルが作った計画書に従っても、地域に人が根づくわけではない。制度を活用しても、それが地域に本質的な経済的価値をもたらさない限り、一過性のイベントや実績報告にとどまってしまう。
4. そもそも「地方に住みたい」というニーズは本当にあるのか?
多くの施策は「人を地方に呼び戻す」ことを前提にしている。しかし、都市で生まれ育ち、都市で働くことに慣れた若者が、自発的に地方に移住したいと考える理由は非常に限定的だ。
自然がある、家賃が安い、子育てに良さそう——そうした要素も重要だが、それだけで生活の基盤にはならない。結局、都市には「選択肢の豊かさ」があり、キャリア・教育・余暇・人間関係など多くの面で多様性と自由がある。
地方が本気で人を呼び戻したいのであれば、「なぜここで働くことが魅力的なのか」を経済的・職業的観点から説明できなければならない。その問いに答えられない限り、どれだけ構想を練っても、現実は動かない。
5. 真の地方創生に必要な視点:稼げる場所をつくるという発想
では、どうすれば地方に人が集まり、定着するのか。その答えは明快である。「稼げる場所」をつくることだ。
これには次のような具体策が求められる:
-
スタートアップやリモートワーク拠点の誘致と支援(ハコだけでなく案件獲得も含めて)
-
地場企業の付加価値向上と販路開拓(単なる6次産業化ではなく、ブランディング・IT活用を含む)
-
産業特化型エリアの整備(例:農業×IT、林業×脱炭素など)
-
大学・高専・研究機関との連携による人材と技術の地元定着
つまり、地方に住む=妥協ではなく、「ここで働くと未来がある」「都市よりもやりたい仕事がある」と感じられる環境づくりこそが、地方創生の核心なのである。
まとめ:「稼ぐ力」なき地方創生は砂上の楼閣
地方創生がうまくいかないのは、「住まい」や「制度」ばかりに焦点を当て、「仕事=稼げる機会」へのアプローチが圧倒的に弱いからである。ICT、移住促進、観光誘致も重要だが、それはすべて“経済的基盤”があってこそ機能する補完的施策であるべきだ。
構想に未来を託す前に、まずは「人はなぜその場所を選ぶのか」という原点に立ち返る必要がある。人は制度では動かない。稼げる場所に人は集まり、稼げない場所から人は離れる。
地方創生が真に目指すべきなのは、補助金の消化ではなく、「地域経済の再設計」である。この視点を欠いたままの施策は、いかに整備されていても、現場から乖離したまま空転し続けるだろう。