地方創生における「地方」の定義とは?
「地方創生」という言葉は2014年の第二次安倍政権で打ち出されて以来、地域活性化の旗印として多くの政策やプロジェクトに掲げられてきました。しかし、ここで立ち返りたい問いがあります。それは「そもそも『地方』とはどこを指すのか?」という基本的な疑問です。地方創生というテーマを真剣に考えるうえで、「地方」の定義をしっかりと理解しておくことは不可欠です。
1. 明確な法的定義は存在しない
まず押さえておきたいのは、「地方」という言葉に明確な法的定義はないという点です。行政文書や政策提言の中で用いられる「地方」は、時として曖昧で、文脈によって意味が変化します。したがって、「地方創生」といった施策の中で使われる「地方」は、定義が固定されたものではなく、むしろ目的や状況に応じて柔軟に使われる概念です。
2. 東京圏以外=地方という前提
政府の地方創生政策において最も一般的な「地方」の定義は、東京圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)以外の地域を指すものです。特に、東京一極集中を是正するという政策目的があるため、東京圏に対する「地方」という構図が政策設計の前提となっています。この定義は、内閣府地方創生推進事務局などの公式資料にも反映されています。
3. 三大都市圏以外も「地方」とみなされる場合
より広義には、三大都市圏(東京・大阪・名古屋)を除いた地域すべてを「地方」と呼ぶ場合もあります。この場合、たとえば仙台市や広島市、福岡市のような中核都市も「地方」に含まれることになります。都市部の利便性を持ちながらも、人口流出や地域産業の衰退といった地方特有の課題を抱えていることから、地方創生の文脈ではこれらの中核都市も支援対象となるのです。
4. 人口規模や地域特性による分類
地方の定義は、人口規模や地域特性によっても区分されます。たとえば、総務省などでは次のような分類が用いられます:
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都市圏:人口20万人以上の政令指定都市や中核市
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地方都市:人口数万人規模の中小都市や郡部
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過疎地域:人口減少率や高齢化率、財政力指数などの指標により法定指定された地域
これらは地方創生施策の優先順位を決めるうえでも重要な基準になります。特に過疎地域は、国からの財政支援や特別措置の対象となるため、定義が比較的明確です。
5. 施策ごとに変わる「地方」の境界線
注意が必要なのは、「地方」の定義が施策によって異なるという点です。たとえば、Uターン・Iターン促進施策では東京圏からの移住が前提となるため、東京圏=中央、それ以外=地方という線引きがされます。一方で、農業支援や過疎対策の文脈では、都市部であっても中山間地域が「地方」として扱われることがあります。
このように、地方創生における「地方」の境界線は固定されたものではなく、対象とする課題や支援対象によって柔軟に設定されているのが実態です。
6. 地域住民の主観による「地方」観
また、「自分たちは地方に住んでいるのか?」という感覚は、客観的な定義よりも、地域住民の主観に基づく部分が大きいのも特徴です。たとえば、東京都心から1時間圏内にある多摩地域でも「地方」と感じる人がいれば、人口10万人の地方都市でも「都市部」と自認する人もいます。このような認識のずれも、地方創生の難しさの一因となっています。
まとめ:固定的な定義よりも「文脈」を読む力が重要
結論として、地方創生における「地方」とは、地理的・法的に一意に定義された領域ではなく、政策目的や文脈、課題の種類に応じて柔軟に使い分けられる概念です。したがって、「地方とはどこか?」という問いに対しては、「何の目的で地方を論じているか?」を常に問い直す姿勢が求められます。
地方創生を推進するうえで重要なのは、境界線を厳密に定めることではなく、むしろ地域ごとの文脈を丁寧に読み解き、それぞれの課題に合ったアプローチを模索する姿勢です。
補足
機関 | 「地方」の意味合い |
---|---|
内閣府(地方創生) | 東京圏以外(Uターン/Iターン促進が前提) |
総務省(過疎対策) | 人口密度・高齢化率・財政力で定義(法定過疎地域) |
地方自治体 | 自治体ごとに自ら「地方創生ビジョン」を策定 |