無理ゲー地方創生

東京一極集中の果てに地方ではどんな未来が待ち受けているのか

地方創生が困難な本当の理由 ― 経済的基盤の弱体化という見過ごせない現実

2014年に政府が「地方創生」を旗印に掲げてから10年。移住支援、起業促進、観光開発など、地方活性化に向けた様々な施策が展開されてきました。しかし、地方の現実を見渡すと、むしろ衰退の速度は加速しているようにも感じられます。

その最大の要因の一つが、**地方経済の根幹にある「基盤の弱体化」**です。具体的には、製造業や農業の衰退、地元企業の高齢化・後継者不在、そして新規事業を立ち上げる際の多大なリスクと障壁――。これらの課題が複雑に絡み合い、地方創生を名ばかりの政策にしてしまっているのです。

本記事では、この経済的基盤の崩壊を軸に、「なぜ地方創生がこれほどまでに難しいのか」を深く掘り下げていきます。


1. 地場産業の衰退と空洞化が止まらない

かつて多くの地方では、製造業や農林水産業が地域経済の中心的な役割を果たしていました。自動車関連の工場、繊維産業、電子部品、さらには木材や果樹園、水産加工場などが、地域の雇用を支えてきました。

しかし、グローバル化や技術革新の波の中で、そうした地場産業の多くが衰退の一途をたどっています。製造業は生産拠点を海外へ移し、農林水産業は高齢化や担い手不足によって耕作放棄や荒廃が進行。地元に仕事がない、あるいは魅力的な雇用がない、という状況が常態化しています。

加えて、一次産業においては「再生産の限界」も問題です。農業で言えば後継者のいない農家が急増しており、農地は荒れ、技術や知見の継承も断絶されつつあります。漁業も漁獲規制や資源枯渇の影響で収益が上がりにくく、産業としての将来性に疑問を抱く若者が多いのが実情です。

このような産業の空洞化が進む中では、いくら「起業支援」や「移住促進」政策を行ったところで、生活の基盤となる仕事そのものがないため、根本的な定着は困難です。


2. 地元企業の高齢化と後継者不在

地方には、長年地域に根差して事業を展開してきた中小企業が多数存在します。地元の工務店、建設会社、製造業者、運送業、土産物屋、商店街の老舗――。こうした企業は、単なる営利組織ではなく、地域のコミュニティにおけるハブであり、雇用や税収、地域貢献の面でも大きな役割を担ってきました。

しかし、経営者の高齢化と後継者不在という構造的な問題が、これらの企業の存続を脅かしています。中小企業庁のデータによれば、日本の中小企業経営者の約6割が60歳以上。にもかかわらず、後継者が決まっている企業は3割にも満たないのが現状です。

特に地方では、家業を継ぐことに対する心理的・経済的なハードルが高く、都市部に出た子ども世代が戻らない、あるいは家業に魅力を感じないというケースが非常に多いです。

M&A(事業承継)や外部人材による引き継ぎを支援する制度もありますが、地方では「他人に会社を任せる」という意識が根付きにくく、制度が浸透していないのが現実です。

結果として、技術・雇用・地域とのつながりをすべて残したまま、企業が静かに消えていく――そんな事例が全国で後を絶ちません。


3. 新規事業や起業の高すぎるハードル

地方創生では、「新しい産業を興そう」「地域で起業を支援しよう」といった前向きな施策が多数打ち出されています。確かに、地域おこし協力隊や起業補助金など、制度的な支援は増えています。

しかし、実際に地方で事業を立ち上げようとする人々にとっては、依然として高いハードルとリスクが立ちはだかっています

起業を阻む3つの現実

❶ 市場が小さく、需要が限られている

人口が少ない地域では、そもそもターゲットとなる顧客が限られています。よほどニッチなビジネスでない限り、地元需要だけで事業を維持するのは困難です。

❷ 人材が集まらない

新たなビジネスを展開するには、ITやマーケティングなどのスキルを持った人材が必要ですが、地方ではそうした人材の確保が難しく、採用コストもかさみます。

❸ 土地や建物の維持コストが意外に高い

空き家・空き店舗はあっても、リフォームにかかる費用や行政手続きの煩雑さが起業の妨げになります。補助金は一時的で、継続性に乏しい場合も多いです。

さらに、地域コミュニティとの関係構築や「よそ者」としての心理的プレッシャーも無視できません。制度上の支援はあっても、「地域で生きていくための社会的ハードル」が高すぎるため、せっかく志を持って地方に移住してきた起業家たちが、数年で去ってしまうケースも少なくありません。


4. 「補助金ありき」の経済構造の限界

もう一つ無視できないのが、地方経済が「補助金ありき」で成り立っているという構造です。地方自治体や地元事業者の多くは、国からの交付金・補助金に依存しており、自立的な経済循環が育ちにくくなっています。

たとえば、「地方創生交付金」や「地域活性化支援事業」などの予算は年度ごとに交付されるため、事業はどうしても**“お金が出ている間だけ”動く傾向**にあります。補助金が切れると途端に縮小、あるいは消滅してしまうプロジェクトが後を絶ちません。

また、補助金の申請書類作成や実績報告の負担が大きく、結果として「資料づくりのための仕事」にリソースを割かざるを得ない状況もあります。こうした仕組みは、本来の創造的な事業活動を阻害し、むしろ地域を疲弊させる温床になっているのです。


5. 地域経済の「再設計」が必要だが、それを担う人がいない

ここまで述べてきたように、地方の経済的基盤は今まさに崩壊の危機にあります。産業は空洞化し、地元企業は消え、起業のハードルは高い。こうした中で地方を再生させるには、「いまあるものを守る」のではなく、新たな経済の在り方を一から設計し直す覚悟が必要です。

たとえば、

  • 地域資源を活かしたブランドづくり

  • 小規模分散型経済(スモールビジネス×複業型モデル)

  • オンライン活用による「仕事の持ち込み」

  • ソーシャルビジネスやNPOとの連携

といった柔軟な発想が求められますが、それを担えるリーダー人材が圧倒的に不足しているのも現実です。

 

しかも、そうした取り組みには時間も失敗も必要ですが、行政主導の政策は短期的な成果を求めがちで、結果として表面的な成功に終始してしまう傾向があります。


結論:経済の土台が崩れていては、地方創生は成立しない

地方創生は、単なる「にぎわいづくり」や「観光振興」ではありません。本質的には、そこに住む人々が安心して働き、生きていけるための“経済的基盤”を再構築することです。

しかし今、その基盤が地方ではすでに大きく損なわれており、それを立て直すには単発的な支援やイベントでは到底足りません。必要なのは、長期的視野での地域経済の再設計と、それを担う人材の育成、そして地域社会全体の覚悟です。

もし私たちが本気で「地方創生」を語るならば、まずこの経済的現実から目を背けず、地に足のついた議論を始めるべきではないでしょうか。