日本では2014年、安倍政権のもとで「地方創生」という言葉が政府の正式な政策スローガンとして打ち出されました。「東京一極集中の是正」「地域経済の再生」「人口減少社会への対応」などを目的として、国と地方が連携しながら多くの施策が進められてきました。
しかし10年近くが経過した現在、地方創生の成果は限定的であり、未だ多くの地域が人口減少や経済停滞に苦しんでいます。一体なぜ、これほど力を入れても地方創生は難しいのでしょうか?
この記事では、その背景と構造的な課題をわかりやすく解説します。
1. 根本的な問題:人口減少と少子高齢化
地方創生が直面する最大の壁は、「人口減少」と「高齢化」です。特に地方では若年層の流出が深刻で、進学や就職を機に都市部へ移り、そのまま戻らないという構図が定着しています。
若者がいなくなると、地域の労働力や担い手が不足します。同時に高齢者の割合が増え、医療や福祉の需要は高まる一方で、支える人材や税収は減る。こうした「人口の構造的な変化」は、どんなに優れた施策を投入してもすぐに効果が出るものではありません。
2. 経済基盤の弱体化と雇用の不安定さ
地方に住む上で大きなハードルとなるのが、「働く場所がない」ことです。かつて地域経済を支えていた農林水産業や製造業は、海外との競争や機械化の進展によって縮小。地元企業も高齢化や後継者不在で廃業が相次いでいます。
一方、都市部にはIT企業やスタートアップ、大手企業が集中しており、キャリアアップやスキル形成を志向する若者にとっては魅力的な環境が整っています。このような“都市と地方の格差”が、地方への移住・定住を阻む大きな壁になっています。
3. インフラとサービスの維持が困難
地方では、交通・医療・教育などの社会インフラが徐々に縮小しています。人口が減ればバスや電車の利用者も減り、路線の廃止や減便が進みます。病院や学校も同様で、「使う人がいないから撤退する」という悪循環に陥りがちです。
また、インフラの老朽化も深刻です。地方自治体は財政に余裕がないため、橋や道路、水道といった基盤の更新も難しく、安全面でも不安が残ります。こうした生活インフラの衰退は、移住者にとってもマイナスの印象を与えかねません。
4. 人材不足と受け入れ体制の不備
地方に移住してもらうには、単に「住む場所を用意すればいい」という話ではありません。職場、保育・教育施設、医療、コミュニティなど、「安心して暮らせる環境」が整っていることが前提です。
しかし多くの自治体では、移住希望者のニーズに合った支援が十分とは言えず、受け入れ体制の整備もまちまちです。さらに、地域住民との関係構築に時間がかかることも多く、「よそ者」として疎外感を感じて離れてしまうケースもあります。
5. 行政の縦割りと短期志向の弊害
地方創生に関わる政策は、国のさまざまな省庁にまたがっています。農業・観光・教育・福祉など、それぞれの縦割り構造が強く、地方自治体が独自の戦略を描こうとしても、補助金の条件や制度の縛りにより自由な施策が打てないケースが多々あります。
また、予算は「年度ごと」に配分されるため、持続可能な長期施策よりも、短期的に“数字”が出る事業が優先されやすい構造も問題です。本来であれば10年、20年単位で取り組むべき課題に対して、1年ごとの予算消化で対応しなければならないという矛盾が生じています。
6. 地域内の温度差と合意形成の難しさ
地域内でも、「地方創生」に対する温度差は大きいのが現実です。外部から来た人材や若い世代が新しい提案をしても、「そんなやり方は地域に合わない」と否定されることもあります。
特に保守的な地域社会では、旧来の価値観や人間関係が重視され、新しい試みに対する抵抗感が根強いことも少なくありません。合意形成に時間がかかり、結局なにも実行されないまま終わってしまうプロジェクトも存在します。
7. 成功事例がそのまま使えない
他地域の成功事例を参考にして「うちでもやってみよう」と模倣することは多くありますが、地域ごとの歴史・文化・人材・地理的条件が異なるため、同じような成果が出るとは限りません。
たとえば「古民家リノベーション」「地域商社」「関係人口づくり」といった施策も、成功には地元の主体性や持続力、コミュニティの協力体制が不可欠です。外部のコンサル任せで形だけ導入しても、根付かずに終わる例は少なくありません。
まとめ:地方創生の鍵は「人」と「仕組み」
地方創生が難しい理由は、一言で言えば「構造的な問題が複雑に絡み合っている」からです。人口減少という不可逆的なトレンド、経済格差、行政制度の限界、地域社会の内側にある課題――それらに個別で対処するだけでは十分ではありません。
本当に必要なのは、地域が主役となり、「人」「仕事」「生活」の好循環をつくるための長期的な仕組みです。そしてそれは、住民・企業・行政・外部人材が対等に協力し合う“地域の意思”によってこそ実現できます。
表面的なイベントや補助金頼みの対策ではなく、「誰のために、どんな地域をつくるのか」という根本的な問いに正面から向き合うこと――それこそが、地方創生の出発点なのかもしれません。
はい、ここまでは地方創生がなぜ無理ゲーなのか役所仕事のような文体でお送りしてきましたが、次の記事からはなぜ地方創生がなぜ無理ゲーなのか各項を深堀していきたいと思います。